最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
「川田君は何時頃上がれそう?」
「何時でも大丈夫です」
今度も俺は何も考えずに即答した。
「そう? じゃあ定時過ぎに、正面玄関で落ち合いましょう?」
「正面玄関ですね? 了解です」
「じゃあ、またね?」
「はい」
莉那先輩は俺に背を向け、スラックスに包まれた形のいいヒップを左右に振りながら、やはりキビキビした動作で歩いて行き、自分の席へではなく、そのまま広告部を出て行った。
俺は莉那先輩の姿が見えなくなると、自分の頬を指でギュッと摘まんでみた。
「痛え……」
やっぱり夢じゃない……!
「ベタな事してないで座ってよ。鬱陶しいから」
主任の低い声で俺は我に返った。
「あ、すみません……」
主任に言われて座ったものの、俺はまだ夢心地でボーッとしていた。
「今夜のミーティングは延期か休会にしておくわね?」
「えっ? あ……いっけねえ。すみません!」
俺はすっかり忘れていたが、今夜は月一の制作チームのミーティングがある日だった。