最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜

部屋の前で、俺は敢えて呼び鈴を押した。自分の鍵で開けるのではなく。


『ど、どちら様でしょうか?』


予想した通り、インターフォンから困ったような恭子さんの声が聞こえて来た。俺は覗き穴を、見えないように指で塞いでいたんだ。


「君こそ誰だ? ここは息子の部屋のはずだが」


俺はふざけて親父の声色を真似た。


『は!? わ、私は……』

「恭子さん、ただいま!」

『まっ……』


カチャカチャっと音がしてドアが開くと、頬っぺを膨らませた恭子さんが顔を覗かせた。


「もう、川田君ったら!」

「驚いた?」

「当たり前でしょ? 本当にお父様がいらしたのかと思ったわ?」

「そう? でも、いつか本当にそういう事があるかもですよ?」

「え?」


と言って薄く開いた恭子さんの口を、俺はすかさず自分の口で塞いだ。


「んん、ちょっと……」

「俺、早くこうしたくて、急いで帰って来たんです」

「川田君……」


俺は鞄を床に降ろし、恭子さんの柔らかな体を両腕でギュッと抱きしめ、もう一度彼女の唇を奪った。少し乱暴なくらいに強く、うんと淫らに……

< 98 / 191 >

この作品をシェア

pagetop