恋する指先
前を向いて
 はあ~・・・・・・

 出てくるのは溜息ばかり。

 いい加減嫌になってくる。


 私と榛くんが幼なじみと言う噂は瞬く間に広がった。


 だからって別に何かあるわけじゃない。


 だからあの時一緒に帰ったんだ、って納得した人はいただろうけど。


 私には別段、変わったことなんてない。


 榛くんがバレたくなかった幼なじみっていう事が、みんなにバレてしまっただけ。


 幼なじみって事が知れたから、話しかけてくれる訳でも、私から話しかける訳でもない。


 何も昨日と変わってない、悲しいくらいに。


 
「前田さんと話したの?」


「え?どうして?」


 放課後、珍しく部活の休みだった綾と一緒に帰る帰り道。

 隣を歩く綾は、斜め上から心配そうに私を見下ろす。


「なんか、部の後輩が言ってたからさ。話したって言ってたって」


「あぁ・・・今朝、ね。階段のところで会って、それで」


 思い出しながら何度目か分からない溜息をついた。


「桐生君は付き合ってるの?」


「知らない。付き合うって言ったみたいな事、前田さんは言ってたけど、本当のところは知らないし・・・・・。前田さんは付き合ってるって思ってるって言ってたけど」


 彼女のはっきりと言い切った声が頭の中に甦る。

 まっすぐに榛君を見つめ返しながら、視線を少しも逸らさなかった彼女。


 
「ふ~ん・・・どうする気なんだろうね、桐生君」


「・・・・・知らない。私には分からないし」


 そう言って視線を落とした。

  
 
< 21 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop