恋する指先
「美伊はどうしたいの?」


「え?」


 綾の質問の意味が分からなくて、聞き返してしまう。


 どうしたいのって、何を?


「桐生君の事、どうなりたいの?」


 サラサラのショートカットが風に吹かれて揺れた。

 私の心もザワザワと揺れ始める。


「どうなりたいって・・・・・」


 小学校の時みたいに、普通に幼なじみの関係に戻りたいと思ってた。


 一緒に学校に行って、一緒に帰って来るような普通の関係に。


 でも、もう、私たちは小学生ではなくて、高校生に成長した事をついこの前に実感した。

 
 時間は流れたいたのに、その中で進んでなかったのは自分の気持ちだったことに気が付いた。

 
 もう小学生には戻れない。


 でも、幼なじみの関係が消えるわけじゃない。


 その関係をお互いに望んでいれば、の話だけど。


 今のところ、その事を望んでいるのは私だけ。


 榛くんに至っては、幼なじみって関係を知られたくなかったくらいに思っていたんだから。


 凄い温度差。


 私と榛くんの温度差ってかなりあるよね・・・・・。



 俯いたまま何も言わない私に、綾は小さく溜息を落としながら


「いつまでも後姿ばっかり見てたって、何も変わらないって言ったよね?」


 と少し怒ったように言う。


 分かってる。いつもいつも、繰り返し言われてきた言葉だから。


 コクリと頷きながら、でも・・・と心の中で呟く。


「どんなに想ってたって、言わなきゃ分からないでしょ?言葉にしないと伝わらない。そうじゃない?」


 歩く足を止めて、綾が私に向き合ってそう言った。


「傷つかないで済む恋愛なんて、無いって私は思ってるから」


 綾はじっと私を見つめてそう言うと、再び歩き出した。


 恋愛・・・?


 ピンとこない響きの言葉にどこか引っかかりながら、私もその後をついて行く。


 そして数メートル先には見慣れた後姿があった―――――。







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