恋する指先
 ただいまも言わないまま、一気に階段を駆け上がって二階の自分の部屋に向かう。


「美伊?」


 二階に上がろうと歩いていた美織ちゃんがびっくりしたみたいに立ち止まって、私の方を見ていたけど。


 床の上に鞄を放り投げて、制服のままベッドの突っ伏した。


 あんな事いうつもりじゃなかったのに・・・・。


 後から後から後悔が押し寄せてきて、堪えきれない声が涙と一緒に零れる。


 コンコンッ―――――


 ドアがノックされて、入るよ、と美織ちゃんが姿を見せる。


 ベッドに埋もれるように泣き伏せる私の様子を見て、静かに椅子に腰掛ける気配がした。


「美伊、どうしたの?」


 優しく問いかけるその声は、榛くんに似ている。


「・・・ッ・・・きら・・・いって」


「え?」


 しゃくり上げながら言う私の言葉は、途切れ途切れで、何を言ってるのか自分でもサッパリ分からない。


「落ち着いて?ゆっくりでいいから、ね?」


 こくこくと頷いて、ゆっくりと深呼吸をする。


 ヒックとしゃくりあげるのが邪魔をして、息を吸い込むことさえもうまくいかない。


 そんな事を繰り返しながら、なんとかゆっくりと深呼吸をして。


 冷静になり始めた頭の中で思い出すのは、私を呼んだ榛くんの声だった。


「大丈夫?」


 心配そうに覗き込む美織ちゃんに、うん、と返事をして私はベッドの上に座る。



「何かあったの?」


「・・・うん」


 そう言って、ゆっくりと話し始める。


 今日のこと。


 朝の事、痴漢の事、帰り道の事・・・・・。


 全部を美織ちゃんに話した。



 
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