恋する指先
「嫌いなのって・・・聞いちゃったの・・・・・・」



 さっきの出来事を思い出して、チクンと胸が痛んだ。



「そっかぁ・・・聞いちゃったんだ」


「うん・・・」


 美織ちゃんは最後まで静かに私の話を聞いてくれて、一言そう言った。


「美伊はどうしたかったの?」


 綾と同じような事を聞かれて、また、言葉に詰まる。


「聞いてどうしたかったの?もし、嫌いじゃないって言われたらどうするつもりだったの?」


「どうって・・・ただ、言われる事を受け止めようって思ってたから」


 長い足を組みなおしながら、美織ちゃんはじっと私を見ていた。

 ふっと笑って立ち上がると、私の側に腰を下ろしてポンポンと頭を撫でる。


「少しは進歩した、かなぁ・・・。でもね、美伊、ただ聞いただけじゃ意味がないんだよ。ちゃんと相手の言葉を聞いてないし、嫌いって言われてたら?榛名くんの言葉を結局、何も聞いてないでしょ?聞くのが怖い気持ちはわかるよ?でも、聞こうって思ったんだったら、きちんとそれを受け止める気持ちも持たなくちゃダメ。中途半端なのは一番ダメ、分かるでしょ?」


 こくんと頷く。


 私も思った事。


 宙ぶらりんのままの何も解決していない。



「痴漢に遭ったんだね・・・怖かったでしょ?私もあるから分かるよ。でも、榛名君がいてくれてホントに良かったよ」


 ギュッと私の肩を抱き寄せながら、はぁぁと息を吐く美織ちゃんの肩にそっと頭を寄せる。



「気づいてくれなかったどうしようって・・・。でも、気づいてくれて助けてくれた。凄く怖かったけど、榛くんの声を聞いて安心した・・・」


 もう大丈夫だから、って言った榛くんの声。


 それだけで安心できた。



「榛名君、かっこよくなったもんね。小学校の時からかっこ良くなりそうって思ったけど。学校でもやっぱりモテてるんだね」


「うん、いつも告白されてるみたい」


「凄いね」


「そうだね」


 あはは、と笑いながら一年生の前田さんの顔が浮かぶ。


 彼女とはどうなったんだろう?


 結局、付き合うってことになったのかな・・・?


「美伊、私も綾ちゃんと同じ意見だよ」


「え?」


 まっすぐに私を見る美織ちゃんの顔は、真剣で目が離せない。


「言葉にしないと伝わらない事ってあると思うの。思ってるだけで伝わるなんて、そんな都合のいい話あるわけないの。エスパーじゃないんだから」


 笑いながら、分かるでしょ?と続ける。


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