恋する指先
「この前も言ったでしょ?ちゃんと前を向きなさいって」


 うん、と頷く。


「後姿ばっかり見ていても、本当の榛名君は見えないよ。俯いていても同じ。ちゃんと前を見て」


 そう言うと美織ちゃんは部屋を出て行った。


 後姿ばっかり・・・か。


 いつも見ていた後姿。


 逸らされる視線が怖くて見れなかった榛くんの顔。


 その分見つめた後姿は、どんなに見つめても振り返ってくれなかった。


 呼んだら・・・名前を呼んだら、振り返ってくれるのかな。


 宙ぶらりんのままのあの質問の答えを、明日、聞こう・・・・・。



 そうしないと、私は前を向けない。


 榛くんの隣を歩けない―――――。



 俯いていた顔をぐっと上げて、私は前を向いた。


 
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