恋する指先
 昨日までとは全く違う榛くんの答えに、戸惑いを隠せない。


 電車が来るまであと3分。

 並んで電車を待つ間、落ち着かなくてそわそわとあたりを見回すと、同じ制服を着た人達が数人、電車を待っていた。

 一緒に並んで立つことに、やっぱり戸惑ってしまって一歩後ろに下がろうと足が動く。


「何で下がるの?」


 右手で手首を掴まれて、冷たい指先に捕われる。

 
「な、なんとなく?」


「何で疑問系なんだよ」


 口角をニッあげて、目を細めて笑う榛くんを久しぶりに見た気がする。


「久しぶりに、見た」


「何を?」


「榛くんの、笑った顔」


 見上げると、口元に手をやって私から視線を逸らす榛くんの顔は、なんだか赤くなっているように見えた。


 もしかして・・・照れてる?


 可愛い、って言ったら怒られそうだから言わないけど・・・なんか、可愛い。


 思わず笑ってしまう。


「俺も見た」


「え?」


「美伊の笑った顔」


 榛くんの顔はもう赤くなくて、私に向ける優しい視線に、今度は私の顔が赤くなっていくのが恥ずかしい。


 止められない紅潮する頬を、隠すように俯くと榛くんの冷たい指先がまだ私の右手を掴んでいることに気が付いて、ますます赤くなる。


 手を、繋いだままなんだ・・・。


 赤く火照るかおとは対照的に、その指先は相変わらず冷たくて、相変わらず私の腕をあっさりと掴んでいた。


「笑ってるよ・・・」


 俯きながらそう呟くと


「俺の前では全然笑わなくなってた」


 そんな返事が帰って来て、後は何も言えなかった。


 だって、嫌われてると思ってたから。


 避けられてると思ってたから。


 嫌われたくなかったから・・・・・。



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