俺の幼馴染が鈍感過ぎる
「ねぇ、それよりも早く行こーよ」

拗ねた顔で、俺が落ち込んでいるのも無視して教室を出ようとする。

うん、俺のことも心配してみようね。

だけど、拗ねた顔もやはり可愛い。

可愛いは正義だ。可愛いは絶対だ。

可愛ければ、全てが許される。

「んじゃ、行くか」

内心、可愛く拗ねるゆうに怒りに近いものが生まれるが…そんなものは無視だ。

下校途中にある、ベリー系の味が充実した店に寄り道することにする。

今の季節は春ということもあり、店に客はほとんど入っていない。

貸し切り状態だ。

俺としては、ゆうを視界にいれる男どもがいないことに安心だが。

ショーケースに並ぶアイスの入ったバケツをキラキラとした目で見つめ、何を食べようかと悩むゆう。

俺は、アイスみたいな甘いものは好きじゃないから、アイスの入ったショーケースでは無く、それを見つめるゆうの横顔を見つめる。

一歩間違えばストーカー、とよく友達に言われるが…あながち間違ってはいないと思う。残念なことに。

「なみ!私、ストロベリー、ラズベリー、ブルーベリーの三段アイスにする!」

ゆうを見つめている間に、ゆうは決めてしまったらしい。

ゆうの年不相応のはしゃぎように苦笑しながら、店員に注文し、会計を済ませる。

俺は、バイトをしているが…全て、ゆうに何かを奢ってやるためである。

コーンの上に乗った三つのアイスを見て我慢のできない子供の様に、手を伸ばしている。

「ぷっ…」

思わず笑うと、膨れっ面をしたゆうが、右手にアイスを持って睨み付けて来る。

写真撮ってもいいですか?
…じゃなくて!

「彼氏をそうやって睨むもんじゃない」

「彼氏?表面上だけでしょ!」

店の中にある、フードコーナーの座席に座った。

何と無く…ゆうの言葉は時々俺を悲しくさせる。

確かに、告白のときに「お前、彼氏欲しーんだろ?俺は、面倒な女を追い払うための彼女が欲しい。だから…付き合ってくんね?」と言ったが、あれは恥ずかしさを誤魔化すための言い方になってしまっただけで。

頭の中でぐるぐると考えていると、不意にゆうが淋し気に呟いた。

「だいたい、他の子ともすぐにキスしちゃうくせに」

俺の耳に届くかどうかの声。

多分、ゆうの本音。

だけど、問い詰めるにはあまりにも淋し気で。

聞かなかったふりをした。

このとき、ちゃんと問い詰めていれば。

あいつが現れても、俺らの仲はこじれなかったんだろうけど…今の俺らは、そんなこと、知る由もない。

ペロリ

ゆうの赤い舌が、アイスを舐めとる。

真菜とは違って、薬用のリップしか付けない化粧気のない顔は、童顔のゆうの顔を可愛く見せる。

唇の端にアイスが付いたが、それには気付かずにアイスをもくもくと食べている。

アイス屋さん、カレカノ、頬に付いたアイス、とくればベタだがこれはやっておくべきだろう。

ペロリ

アイスのついでに、(むしろこっちが本命)唇を舐める。

「甘いな…」

甘いのは好きじゃないが…ゆうの唇の甘さは別だ。

「…っ⁈なにすんの!もう」

真っ赤に染まった頬。本当、まじ

「可愛い」

「⁉ば、バカじゃないの‼」

思わず、声に出てしまったらしい。

だが、先ほどよりも真っ赤に頬が染まる。

結果オーライということで。

心無し、先ほどよりも不機嫌な様子でアイスを食べ終わったゆうは、無言で席を立った。

ゆうの座っていた椅子の前、ゆうのいた机には、コーンを包んでいた紙や、手を拭いたと思われるティッシュが残っている。

昔から変わらない、ゆうの怒ったときの感情表現。

必殺、ゴミは放置。

自分を見て欲しいから、怒られることを承知で両親相手にやっていたときは、呆れたが…今も変わらずやっていることに、自然と笑みがこぼれる。

ゴミを拾い集め、ゴミ箱に捨て入れる。

先に出てしまったゆうを追いかけ、外に出る。

きっと、拗ねた顔をして待っているのだろうと思って。
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