常初花

――― カシャン!


「ひゃっ?!」


電話をしていたら突然ガラスの割れる音がした。

驚いて音のした方を振り向くと、並べた琉球ガラスが全部、テーブルの上で割れていて。



「あぁっ!嘘!なんで?!」


思わず駆け寄る。
電話の向こうで、柏木さんの心配そうな声が聞こえた。


『どうしたの?』

「大事にしてたグラスが…全部割れちゃった!なんで?」


死んでしまった洋ちゃんの写真の前に並べながら、想い出話をして。
結婚の、報告をしていた。


来週、沖縄に行ってまた一つ増やす予定だったのに。
それで、最後にするつもりだった。



「洋ちゃん、怒ってるのかなぁ」



そう思えば、哀しくなって目頭が熱くなる。
優しいけど、洋ちゃんはヤキモチ焼きだから…。



『大丈夫だよ、あいつはそんなヤツじゃないだろ』



不自然に割れてしまったグラスを見下ろして、だけど不思議と怖くはなかった。


テーブルに置いた写真立ての中で
洋ちゃんがあの頃と変わらない笑顔でいる。


閉め切ってエアコンの効いた部屋で、どこからかふわりと風が吹いた。




――― 幸せにね。



「ありがとう。洋ちゃんとの10年、幸せだったよ」



写真立てじゃなく、窓辺に向かって。

自然とそんな言葉が零れた。




Fin...


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