常初花
天辺から、太陽の光が威圧的に身体に降り注ぐ。
聞こえる蝉の鳴き声に木を仰ぎみれば、木の肌に点々とその姿を見ることができた。


「うわ、すごい蝉!大量発生?」


隣を見れば、彼女が僕と同じように見上げている。


「さぁ。蝉なんてこんなもんじゃないの?子供の時からこの辺はそうだった気がする」


住宅街だから、数少ない木に蝉が集中するのかもしれない。
このコインパーキングの一画に数本、後は大通りに道すがら植えてある程度だ。


彼女が軽快な音とともに日傘を開く。
それが合図となって、歩き始めた。


「実家、あとどれくらい?」

「10分くらい歩くよ。大丈夫?」


緊張もあると思うが、今は暑さの方が堪えているだろう。
僕の育った家は団地で、客用に停める駐車場がここにしかない。


「着くころには汗ぐっしょりになってる気がする」

「着いたらシャワーでもしようかな」

「…ちょっと。いきなり、お母様と二人きりにしないでよ」


僕の言葉に、緊張が甦ったのか彼女が表情を固くした。



今日は夏期休暇を利用して、母に結婚する予定の彼女を紹介する為の帰省だった。
実のところ僕自身、母に会うのは2年振りだ。



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