常初花
話したところで母は何も変わらない気はする。


ただ僕が懸念するのは、そのことで彼女が自分を卑下するのではないかということだった。


そう口を開こうとした時、ドアノブ辺りでガチャガチャと鍵の音がする。
いきなり開いた扉が鼻先を掠めた。


「うわっ!」

「もう、さっさと入ってきなさいよ!」


うちの中から身体半分だけ乗り出した母親の、好奇心を隠しもしない嬉しそうな顔とちらりとだけ目が合うが、それはすぐに僕の連れに向けられた。


「いらっしゃい!早く入って、暑かったでしょう」


満面の笑みで彼女を手招きし、さっさと中へと入っていった。
相変らずの愛想の良さとマイペースな様子に、随分長く会ってはいなかった罪悪感が少し和らぐ。


元気そうで、安心した。


「とりあえず、入ろうか」


彼女と顔を見合わせて頷く。
母の勢いには押され気味であったが、歓迎ムードに安堵したのだろう。


微笑んで彼女も一歩中へ進み、僕もその背に手を当てながら、小さな声でただいま、と呟いた。



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