常初花
ちらりと横目で母を見たが、にこにこと変らずご機嫌で僕らを見ている。
まぁ、経験者か店に行ったことのある男にしかピンとこないものなのかもしれない。


そう思い直し、平静を装ってそのまま煙草の先に火を付けた。




「彼女、夜の蝶なのね」


緊張で疲れたであろう彼女をソファに座らせたまま、使ったコーヒーカップやアイスのカップを下げに台所の流しに立った時。


冗談めかして母がそう言った。
やっぱり、バレてたのか。


「…わかった?」

「別に隠すことないでしょ。なんで?」


母が軽く肩を竦める。
まあ、この人ならそう言うと思ったけど。


「彼女は話した方が良いって言ってんだけど、別に言う必要もないって僕が言ったんだよ。結婚したら辞めるし構わないだろ」


僕自身、彼女の職業がどうとか思ったことはない。
ただ、本当なら旦那の母親になど知られたくはないんじゃないかと思っただけだ。


「馬鹿ね。彼女、気にしないで堂々と言えば良いって言って欲しかったんだろうに」


女の気持ちがわかってないわ、と深い溜息付きでダメ出しを戴く。
母の言葉に、まさか、と尋ねた。


「母さん、もしかして水商売やったことあるの」


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