常初花
にっと唇を横に引き悪戯っぽく笑う母は、年の割に若く見える。


「そりゃ、ぺらぺら話されるのも嫌だけど。隠せと言われるのも悲しいもんなのよ」


母曰く。
彼女が失敗した、と悟った時の僕の視線が責めているように見えて、それで悟ったのだという。


「あんな目で責めなくてもいいじゃない、甲斐性なし」

「いや、責めたつもりじゃないんだけど、知られるのを彼女がイヤがるだろうからと心配して…」


言い訳をしながらも、そうか、と気が付いた。
何度も彼女がその話をしたのは、別に本気で話そうと思った訳ではなくて。


『バレようがどうしようが、僕は構わない』

その言葉が聞きたかったのか。
僕の言葉が必要なほど、彼女は不安だったのか。


黙り込んだ僕を、下から母が睨んだ。


「大事にしてあげてるの?ちゃんと、コミュニケーションとらなきゃダメよ。

一緒に住んでる相手にはきちんと自分の予定を伝えるもんよ?」


高校生の頃を、彷彿とさせる。
きっとこれらは、出ていくであろう僕を見越しての説教だったのだ。


そして。


「喧嘩したからって、手を上げたり脅したりするんじゃないわよ?威圧して黙らせるなんて、男じゃないわ」



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