常初花
「すみません、コレ、ください」



ころん。


いつものように、レジ台に、一つだけ林檎を置いて彼女は財布を開いた。



「ありがとうございます。280円です」



会計を終えると、一番小さなレジ袋に入れて彼女に手渡しもう一度礼をする。



「ありがとうございました」



伏し目がちだが、やや口角を持ち上げて微かに笑ってくれたのがわかった。


小さく会釈して店を出て行く彼女の背中を見送ると、店内定位置の時計を見上げる。



「もうすぐ閉めだな」



夕方6時前、平日のこの時間が、彼女の来店時刻。


閉店間際だから、いつのまにか彼女が来るのが閉店作業の合図のような感覚が出来た。


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