常初花
刺激も出会いも何にもない。


会社勤めが懐かしくなるくらい、穏やかだが淡々とした日々は退屈なものだった。


そんな時、一人の客が、気になった。


その習慣は、夏頃から平日のいつも同じ時刻にやってきた。



「いらっしゃいませ」



彼女は、店内を迷わず林檎コーナーへと向かう。


少し腰を屈めて、長いストレートの黒髪を指で耳にかけながら、数種類ある林檎の中から一つを選ぶ。


彼女のお気に入りは、小ぶりで少し酸味のある、紅玉だ。


たまに、ふじやジョナゴールド。


それを、毎日1個だけ。



「ありがとうございましたー」



いつも軽く会釈してくれる。


伏せた睫毛が、長い。


肌、白いなぁ――…。



退屈な毎日の中で
唯一、色鮮やかな時間。

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