常初花
ただ何事もなく重ねた月日じゃない。
辛いこと、苦しいことを乗り越えたからこその慈愛に満ちた笑顔と、昔のそれは比べるべくもない。
「いつまでも可愛いって言われたいのが女ってものなの。」
尖った唇に、ぷっくり頬を膨らませて、拗ねた表情。
これだって、付き合ったばかりの頃は見られなかった。
それに。僕が、こう言えば。
「可愛いよ。今のほうがずっと」
ほら、真っ赤になって。
昔と同じくらい初々しく、笑って…。
あれ?
「変わらないよね。洋ちゃんは」
きっと彼女は、昔のように僕に花のように笑ってくれる。
そう思っていたのに。
僕の名前を呼んで、彼女の瞳から一筋涙がこぼれた。
きらきら、それは。
僕の目には琉球ガラスの欠片のように光って見えて。
「あの日から、4年が経ったよ、洋ちゃん」