常初花
「あの日…って、なんだっけ?僕なんか忘れてる?」


彼女の涙の意味がわからなくて、僕は焦って記憶を辿る。

ああ、付き合い始めた記念日かな。
そういえば、うっかり何もせずに過ごしてしまった。


「最初の5個は、洋ちゃんが買ってくれたの」


ぽろぽろと涙を零しながら、指でひとつひとつグラスを辿る彼女。

そうだ、最初の5年は僕と沖縄に行っていたよね。
とても楽しくて幸せだった。


じゃあ、何故。
その後は一緒に行かなくなったんだっけ。


あぁ。
なんだろう。


「花、痛み止めないかな。頭が痛いんだ」


ずきずきするんだ。

それにもう、沖縄の話はしたくない。



「ねぇ、花」


「洋ちゃんが死んで、4年が経つよ」



あぁ。

頭が、痛い。


そんな話、したくなかったのに。


頭が痛い。


< 6 / 36 >

この作品をシェア

pagetop