常初花
彼女は、テーブルに置かれた僕の写真に話しかける。
目の前に、僕がいるのに。



「洋ちゃんのこと、今でもずっと、好きだけど」


「うん」


「ごめんね、私、他に好きな人が、できたよ」


「うん、知ってるよ」



ぽろぽろ零れる涙が、テーブルを濡らして、僕は優しく笑うしかできない。

拭ってあげる指が君には届かない。
いやだと叫んだって、君には届かない。


この頃、君の携帯が鳴る度に。


照れたように綻ぶ笑顔は、僕が一目惚れした、今も僕の写真に笑いかけてくれる時の笑顔と、同じだって気付いてた。


あぁいやだなぁ。
ずっと、僕だけのものだと思いたかった。



「私、お嫁さんになるよ」

「いやだ」



あ、うっかり本音が出ちゃった。
でも、どうせ届かないんだ。



花の携帯の音が聞こえる。




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