とけていく…
 小さな頃から、仕事で忙しそうにしていた義郎を、彼は知っていた。寂しくならないように、彼のそばにいてくれたのは、由里だった。

『お父さんは、私たちのために頑張ってるんだからね』

 由里が、ことあるごとに口にしていた言葉だ。それでも、追いつかない父の背中を幼い彼は追いかけていた。やがて由里が亡くなり、彼らをつなぐ架け橋が消えてしまった。すると父は、一年も経たないうちに、アメリカに行ってしまったのだ。自分は、父のなんだったのだろうか? ただの荷物に過ぎなかったのか。しかも頭には"いらない"の付く…

 そんな父が今更『心配だ』と言って、今までのことを謝ってくるなんてことを彼は予想もしていなかったのだ。涼は、もうひとつため息を吐きながらソファに腰を下ろした。

「…俺は、俺でちゃんとやってるから、今更、気を遣うなよ。じゃあな。」

 勢いよく電話を切った彼は、気分を害されたとばかりにソファに踏ん反り返っていた。

(今更、なんだって言うんだよ、あのくそ親父…。俺をひとりにして、てめぇはアメリカで女とイチャついてたのかよー…)

 ヤキモキした気分を抑えられず、思わず舌打ちをした涼であったが、すっくと立ち上がると、洗濯の続きに取り掛かった。

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