とけていく…
「そういえば、バイトの方はどう?」

 不意に紫が尋ねてくる。涼はドキッとしたが、それを悟られまいとして平常心を保とうとした。

「ん、辞めちゃった」

 食べかけのハンバーガーを一気に口に押し込み、紫にニコッと笑って見せると、彼女は眉をひそめ、「なんで?」と聞く。彼は、少し考えてから口を開いた。

「なんか、あいつが色々うるさくて、弾く気が失せたから」

 もちろん、"あいつ"とは、言うまでもない。涼の思いがけない答えに、紫は「そう」とだけ言って、残りのウーロン茶を飲み干した。

「さて、そろそろバイト行かなくちゃ」

 紫は腕時計を見ながら、立ちあがる。

「じゃあね、涼。またね」

 名残惜しそうに手を振る紫を見送ると、涼はそんな彼女を遠目で眺めていた
。きっと、安心したに違いない、彼はそう考えていた。すると、胸がまたチクリと痛む。

(本当は…)

 彼はぎゅっと手を握り、膝の上で硬い拳を作っていた。

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