とけていく…
「ピアノやってた時の涼はカッコ良かった。でも入り込む隙もなくて、ただ見てるだけだった。お姉さんが亡くなってからは、バカやってたけど自分の殻に閉じこもっていたじゃない? そんな涼をあたしは救い出すことはできなかったよ」

 紫は、もう溢れ出す思いを止められなかった。肩が小さく震えていた。

「本当は解ってた。涼は優しいから、気付かないふりをしてくれてるんだって。あたしは、ただ置いてかれるのが嫌で、昔の恋にすがってるだけだって…」
 今にも泣きそうな紫に、彼は心が痛くなる思いだった。

「…考えすぎだよ」

 そう言ってやるのが、彼には精一杯だった。彼女がそこまで考えていたかと知り、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。

「あたしはきっと、涼を救うことなんてできないんだよね…?」

 そんな言葉を浴びせられ、彼はもう隠せなくなっていた。彼は、深呼吸した。覚悟を決めるために。

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