とけていく…

「俺がピアノを弾いていた理由は、ある人のためだったんだ。その人は二年前に死んだ。それ以来、ピアノに触れることはなかった」
"二年前"と聞き、紫の背筋がピクリと反応していた。

「そんな時、決して出会ってはいけない人に…　出会っちゃったんだ」

「… まさか」

　彼は、うなずいた。

「その人は、俺の弾く『音』を好きだと言ってくれた…　だからまた弾き始めた。」

　そう言いながら、彼は財布をデニムパンツの後ろポケットから取り出すと、中から一枚の古びた写真を取り出した。それを紫に手渡したのだ。彼女は渡された写真を見ると、目を見開いた。

「この写真…　この間の人？」

　すると、彼は首を横に振った。

「覚えてない？　この写真は、二年前に死んだ、俺の姉貴…」

「え…？」

　彼女は、明らかに混乱していた。それでも、涼は続けた。

「俺は、ずっと由里のことばかり追いかけて、由里の喜ぶ顔を見たくてずっと
…」

「それって…家族愛…なんだよね？」

　紫は、確認するようにゆっくりと訊ねたが、彼はまたも首を振った。

「変態だと呼ばれても構わない。たとえ歪んだ恋愛感情だと言われても、その気持ちに嘘はつけなかったんだ」

　彼の思いもよらない告白に、紫は絶句していた。

「嘘…」