とけていく…
「…それじゃ」

 彼が二人に背を向けて店を出ようとすると「待って」と声がかかった。マスターだ。涼の足が止まる。

「真紀、悪いけど買い物に行ってきてくれるかい? 食パンが切れそうなんだ」

「え…、はい」

 真紀は持っていたトレーをカウンターに置き、エプロンを外した。そしてマスターからお金を預かると、ドアに向かう。

「気をつけるんだよ。涼君も、また、いつか。ありがとう」

 手を振るマスターに会釈して、涼と真紀は店を出た。

「……」

 並んで歩くも、彼らの間には沈黙しかなかった。ただひたすら黙って歩いて
いると、不意にその沈黙を破ったのは、真紀だった。

「えっと… 元気だった?」

 その笑顔はいつも通りではなく、やはり余所余所しくて、涼の胸を締め付ける。彼は小さくうなずいた。

「そ。」

 一度ピリオドが打たれた会話だったが、取り繕う様に、真紀が再び口を開く。

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