とけていく…
 義郎の体形はガッチリしている方で、若い時はよくスポーツをしていたりと、病気とは無縁だと言われていた。しかし、ガンはよりによって、そんな親父の身体を静かに蝕んでいたのだ。もってあと半年。余命宣告を受けた義郎は、しばらく口をきけないほどだったと言う。

 帰国して、家族と過ごしたい…

 彼は会社を辞め、帰国の準備を始めたのだ。その時の電話が先日のことだった。

(再婚よりも、もっと大事な事実があったじゃないか)

 唇を噛み締め、うつむいた。

「あの…」

 彼はそのままの姿勢で笑子を呼んだ。

「…なにかしら。」

「親父は?」

「一緒に帰国したわ。今日は、アメリカの病院の紹介で、都内の病院で検査入院してるの。」

「…そうですか」

 連絡くらいしろよ…、と言いた気に涼は口を結んだ。

「…私はできるだけあの人のそばにいてあげたいって思う。もちろん、あなたにも」

「…はい。」

「何やら、『自分は忙しい』って言われたって彼、言ってたけど… なにかな
さってるの?」

 笑子の問いに、彼は目の前にあるでっかいグランドピアノに視線を走らせた。

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