とけていく…
 翌日、涼は義郎の病院を訪ねていた。病室は、個室だった。

「親父、調子はどう?」

「おぉ。涼か」

 久しぶりの対面に、義郎は笑顔を浮かべていた。涼は少し戸惑っていた。こんなにも優しい顔をした父の顔など、もう何年も見ていなかった気がしたのだ。しばらく会わないうちに、義郎の髪は白髪が増え、顔にはシワが刻まれ、頬は少しこけていた。

(弱々しい…)

 それが、涼の受けた印象だった。

「久し振りの再会が、こんなんですまんな」

 涼の視線を遮るように、義郎はそう口にした。

「あ、いや…」

 見透かされたのかと思い、視線を落としてから、彼はベッドサイドにある椅子に座った。

 少し前まで、とても背中の広い父親だった。その背中はとても遠くて、いつも手に届かない。ところが、今はどうだろうか。手を伸ばせばすぐそばにいることが、充分に分かる。笑顔が『自信』で満ちあふれていた時とは対照的に、今は『人恋しい』笑顔で迎えてくれる義郎は、本当に彼を必要としてくれているのだろうか? 涼には、イマイチよく解らなかった。

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