とけていく…
十三.
 約束の日、涼は真由美に言われた場所に来ていた。彼が立っている場所とは、済南音楽大学の正門の前だった。

 先日、涼が真由美の携帯に電話した時のことだ。数回の呼び出し音が鳴ったあと、いつもの調子で、彼女は電話に出た。

「あ、もしもし、先生ですか。鳥海です…」

 涼の書類を持った手は、少し震えていた。

『で、結局、どうするの?』

「出ます」

 強く、はっきりとした口調で言い切った。彼の決意を読み取ると、真由美の
口調も真剣になった。

『…わかったわ。じゃぁ、必要事項を記入した書類、私の研究室まで持ってきてくれる?』

「研究室?」

『そうよ。今、音大の教授もしてるの、私。』

「わかりました。明後日なら暇なんで。何時くらいが都合いいですか?」

『そうねぇ、午後の一時くらいまでなら、研究室にいるから、あ、そうだ、一緒にお昼食べましょ。場所は…』

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