とけていく…
「ま、お聞きの通りよ。本田君」

「そうですか。まさか、先生の秘蔵っ子が彼だったなんて、びっくりですけど」

 動じることもなく、正樹はカレーを口に運びながら言うと、「ねぇ、何で二人知り合いなの?」と、真由美は好奇心旺盛な目をして尋ねていた。

「彼は、僕のいとこの友達なんですよ。彼はおじが経営してる喫茶店でピアノの生演奏のバイトしてたんです」

 きっちりと過去形になっていることを、涼は聞き逃さなかった。

「あら、そうなの」

 正樹の答えを聞いて、満足そうに微笑む真由美。涼はカツカレーを食べながら二人のやり取りを黙って聞いていた。

「じゃぁ彼のピアノ、聞いたことあるわよね?」

「もちろん」

 正樹がさらりと答えると、真由美は屈託なく笑った。

「どうだった? ダメだったでしょ?」

 そして悪びれることもなくそう言うと、涼は思わず咳き込んだ。

< 145 / 213 >

この作品をシェア

pagetop