とけていく…
 たいして楽しくもない昼食を終えると、涼はそそくさと済南音楽大をあとにした。駅までの道を歩いていると、自然と涼の口からため息が漏れる。

(なんであいつもコンクールに出るんだよ…)

 自分をリセットするために出ることを決めたというのに、水をさされた気がして、涼は憂鬱になっていたのた。そんなことを思いながら歩いていると、後ろから駆け足が近づいてくるのに気が付いた。涼は何気なく振り返った。彼のあとを追っていたのは、正樹だった。

「ちょっといいか?」

 軽く息を弾ませながら正樹は言う。その表情は、さっきとはまるで違っていた。とても強い眼差しで彼を見ていたのだ。とっさに涼も身構えた。

「…なんすか?」

 負けじと精一杯強がって正樹に返事をする。

「お前が、橋本先生の推薦だと? あんなピアノでヌケヌケと。冗談もたいがいにしろよって言いたいよ。」

 正樹は、汚いものを見る目でそう言い放ったのだ。

< 147 / 213 >

この作品をシェア

pagetop