とけていく…
「先日、真紀は泣いて帰ってきた。原因はどうせお前だろ? 中途半端なお前が、中途半端な気持ちで、あいつに近づくなよ」

「……」

「真紀は、お前のピアノを褒めてたけどな、俺はあんな演奏、認めない。お前が俺のライバルだって? 笑わすなよ。俺はお前を敵だとも思ってねぇよ。それでも優勝狙ってるわけ?」

「…話は、それだけですかね?」

 涼は静かな口調でそう言った。

「秘蔵っ子は余裕だな」

 正樹は涼の胸ぐらを掴んできたが、彼はそれを振りほどくと、正樹を睨み付けた。

「俺は、あんたになんて負けない。絶対にな。あんな思いをするのは、二度とごめんだ」

 涼がそう言い放つと、正樹は鼻で笑った。

「やっと本音を言ったね。俺が優勝したら、二度と真紀に近づくな。そのかわり、お前が万が一優勝したら、俺は真紀を諦めてやるよ」

 正樹は吐き捨てる様にそう言うと、来た道を戻って行った。

 正樹の突然の宣誓布告に、涼の中の『スイッチ』が今、完全に入った。
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