とけていく…
 義郎は日に日に痩せていった。以前にも増して頬がこけ、元気だった頃とはまるで別人だった。真由美のレッスンのあと、いつものように病院に寄る。

 この時ばかりはコンクールのことを忘れ、彼は病室で他愛ない世間話を楽しんでいた。それはそれで楽しいと、彼は感じていた。義郎も嬉しそうにしている。しかし、日に日に衰えていく、義郎の姿を見るのは、正直、しんどいものがあった。

 今の姿の義郎を、目に焼き付いていく。彼の中の『冷静な部分』が、目から得た情報を、確実に記録していく。それは、かつて由里が死んだ時とはまるで違う形で、確実に訪れる『死』を受け止めようとしていたのだった。

 そんな中、笑子は幸せそうに微笑んでいた。どんな時も、その名前に負けないような『笑顔』を浮かべていたのだ。どんな小さな幸せでも、大きな幸せに変えてしまう、彼女にはそんた力があるように涼は思っていた。

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