とけていく…
「…寂しい、ですよね」

 絞り出すような涼の声は、静かな病室にこだました。笑子は「そうね」と返しながらうなずいた。

「でも、しょうがないわよね」

 笑子はクスッと笑って見せた。

「私が最後まで一緒にいるって決めたんだものね」

 彼女は、そっと窓の外に目をやった。病室の窓から見える背の高い樹々は、そよそよと揺れていた。

「あの人には時間がない…。いろんなことを思い出してしまうのは、仕方ないことだから。命が消えてしまうその瞬間に、わかってくれるわよね」

 優しく微笑む笑子を、涼は目を細めて真っ直ぐと見つめる。すると、「その視線、お父さんそっくりね」と、彼女は言った。

「内緒よ」

 最後、彼女は人さし指を口に当てた。彼は小さくうなずいた。

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