とけていく…
「だいぶマシになったわね」

 コーヒーカップを片手に、自身のグランドピアノに寄りかかりながら、真由美はうなずいていた。

「ちょっと休憩しましょうか」

 彼女のその一言で、涼はピアノの椅子を立った。真由美は窓際のテーブルセットに、クッキーと彼のコーヒーを置いた。

「ホントは、優雅にお茶してる場合じゃないけど、私、今日はオフなのよ。だから特別〜」

 鼻歌交じりにそう言うと、彼女は椅子に腰をおろし、涼にも座るように促した。

「最近、冴えない顔してるわよね。なんかあった?」

 真由美は、向かいに座った涼の顔を覗き込みながらそう言った。涼の目が一瞬大きくなったが、彼は目をそらしてから小さく笑う。

「父が帰国したんです」

「あら」

 彼女の顔がパッと明るくなる。しかし涼の様子を見ると、彼の動向に黙って注目した。涼は、近況を真由美に報告した。それを聞いた彼女は、神妙な顔つきで相槌を打っていた。最後、話を聞き終わった真由美は、「なるほどね…」とつぶやいた。

「鳥海先輩は、高校の時の先輩だったんだけど、当時は、ラグビー一筋で女子にすごい人気だったのよ〜。あんなに丈夫だった人が、嘘みたいね」

 窓に映る庭を遠目で眺めながら、真由美は昔の思い出を頭の中で巡らせていた。

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