とけていく…
「さっき弾いてた曲、なんてゆーの?」

 いつものようにマンションの駐輪場から自転車を出していると、後ろで雄介が思い出したように質問した。

「あぁ… ショパンの『別れの曲』」

 涼がそう答えると、雄介は縮こまった。

「どうりで寂しそうな曲だなぁって…」

 ポツリと漏らすと雄介はハァ〜、と大きく深いため息を吐き出したのだ。

「何だよ、朝からうっとうしいな」

 自転車を押して歩きながら、涼が横目で言うと、「お前が昨日、さっさと名前書かないから…」と、雄介はボソっと不平を言ったのだ。

「なんで? 俺のせい?」

 目を点にさせて聞き返すと、「お前のせいだ」と雄介はいじけていた。昨日、沙織と何かあったようだ。

(…よし、触れないでおこう)

 涼が心の中でそう決めると、いつもの桜並木に差し掛かっていた。

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