とけていく…
 真紀は、軽く息を弾ませながら、指定された場所に佇んでいた。川の岸と岸を渡す大きな橋の真ん中辺りで、肘を付き流れる川を眺めている涼の後ろ姿が見えると、彼女はゆっくりと彼の隣に並んだ。

「どうしたの? 突然呼び出したりして」

「ん…、ごめん。忙しかった?」

 目も合わさずに涼が謝る。そんな彼の横顔を不安そうに見つめながら「忙しかったわけじゃないけど…」と、真紀は口ごもった。黙っている涼の横顔を真紀は改めて見つめた。こんな寂しそうな彼の顔を見たのは、初めて出会った時以来だと思っていた。

「…泣いてるの?」

「…気分的には、そんな感じ」

 真紀の問いに、涼は素直なそう答えていた。

「ホントは、コンクールまで会わないつもりだったんだけど。ちょっと今、心が折れそうなんだ…」

 彼はそう言って、頭を真紀の方に傾け、彼女の肩に預けたのだ。
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