とけていく…
 病室に入ると、親父の手を握ったままでベッドサイドで眠っている笑子がいた。涼は膝かけをそっと彼女の肩にかけた。

(多分、もう… 時間の問題なのかもしれない…)

 刻々と近づくその時まで、残された時間はあとどれくらいなのだろう。

(でも、まだ俺は見せてない)

 彼の目指している、本当の姿を。

 涼は、眠る義郎の顔を眺めた。一週間前に語ったことが嘘みたいに衰弱しきったその顔は、本当に弱々しく、今にも消えてしまいそうだった。

(まだ死ぬなよ…)

 拳を握りしめ、病室にかかっているキケロの曲を背にして涼は病室を出た。

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