とけていく…
 すると、正樹はぷっと笑う。真紀は、そんな彼の行動に顔を赤くして怒っていた。

「こんな時に、冗談はやめてよ…」

 拳を振り上げ、真紀は正樹の顔をめがけて殴ろうとした。彼はいたずらな笑顔でそれを両手でキャッチする。

「悪かったって!」

 彼は謝るが、真紀はプイとそっぽを向いてグラスを洗い始めた。

「別に、冗談なんかじゃないけどな〜」

 とぼけた顔をして、彼は笑った。そしてそんな彼女を横目に、正樹はさっきまで真紀が見つめていた先に視線をやった。壁にかけられたカレンダーには、明日の日付に赤丸が打ってあったのだ。

「いよいよ明日か。…真紀は、どうするのかな」

 意味ありげな口調で正樹がそうつぶやくと、真紀の手が止まった。

「…お兄ちゃんは、いつでも余裕なんだね」

 真紀が小さな声で言った。すると、正樹は首を振った。

「そんなことないよ。いつになく、燃えてるよ」

 その口調は、さっきまでのふざけたものではなく、闘志をみなぎらせた強いものだった。思わず、真紀は振り向き、彼の顔を見た。真っ直ぐと貫くような視線を彼女に浴びせた正樹は、店を後にした。

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