とけていく…
「おぉ…、来たか…。…座れよ」

 寝たきりの親父は、とても弱々しいしがれた声でそう言った。

(消えそうだ…)

 涼は、そう直感した。しかし、そんなことを悟られぬよう、彼は言われた通りに、ベッドサイドの椅子に腰掛けた。

「どうしたの」

 彼は冷静を装い、落ち着いた口調で訊ねた。

「最近…、よく昔のことを思い出すんだ…。お前も由里も…、まだ幼かった時の頃を…」

「…そう」

 義郎は涼の顔を、目を細めて見据えた。そして、微笑みを浮かべたのだ。

「大きく… なったな…」

 その目はとても優しく、子ども頃に見た、『強かった時』の親父の目だった。彼が追いかけても追いかけても届かなかった…

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