とけていく…
「俺も…、子どもの時に…ピアノを弾いていたんだ…」

 初めて聞く話に、涼は黙って耳を傾けていた。

「でも…、お前みたいに…才能があったわけじゃないさ…。弾くのは…楽しかったがな…。だから…、お前がピアノを始めた時…、この子は『私の子』だって…深く思ったことを覚えてるよ…」

 苦しそうに咳をしながら、義郎は続けた。

「涼…、私はな…、お前の…雄姿をいつでも思い描いていた…。…だから後悔はしないよ…。たとえ…、間に合わなくとも。…お前は私の誇りだ…」

「親父…」

「コンクール…、頑張れよ…」

 後ろでは、笑子が泣き崩れていた。

 彼は親父の目を見つめた。咳込む義郎。笑子が、それを介抱する。

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