とけていく…
 電車の揺れに体を預け、彼は頭の中を整理していた。

 こんな状態で、弾けるだろうか…?

 膝の上で両手を広げ、指にぐっと力を入れた。

(やらないと、今までが全て無駄になる…)

 やるしかないんだ、と言い聞かせて自分を奮い立たせる。彼は、目を閉じて
小さくうなずいた。



「もう、前半戦は終了したよ。…今ごろ来て、どうすんの」

 涼の姿を見るなり、ホールのエントランスに立っていた正樹が冷たく言い放った。

「君は、逃げた」

 人差し指を彼に向けた正樹は、さらにそう付け加えたのだ。

「俺は、弾きますよ」

 涼は、じっと正樹の眼を睨みつける。すると、正樹は鼻で笑って見せた。

「…無駄な自信だけは、相変わらずだな」

 正樹は吐き捨てるように言い残すと、涼は黙って中に入った。

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