とけていく…
(当然だよな…)

 それでも、許されるなら涼は弾きたかった。

(なんだろう。この感覚…)

 病室にいた時までは、指は死んだと思っていたのに、急にさまざまな感情が彼の体中を駆け巡っていた。十分ほどしか待っていないのに、その十分が一時間にも感じるほど長く待たされているような気がしていた。

「涼くん」

 彼は、顔を上げた。

「ステージ袖に行きなさい」

 真由美はロビーの奥にあるステージに続く白いドアを指差した。涼は目を丸くして、彼女の言葉を聞いていた。

「ほら、早くしなさい!」

「…はい」

 彼はすくっと立ち上がり、そのドアに向かった。

「実行委員会に怒鳴って説得したのよ! チンケな演奏したら、タダじゃおかないからね!!」

 真由美は、そんな彼の背中に大声で叫んでいた。

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