とけていく…
「あ…」

 そこには賞状を手にした正樹が立っていた。

「君さ〜、バカにしてんの?」

 ものすごく不機嫌な顔を向けて彼はぼやいていた。

「バカになんてしてませんよ。おめでとうございます」

 横目で涼を見る正樹は、大きな溜息を吐く。

「…半年であそこまでよく仕上げたもんだな」

 ”感心”を通り越して呆れ顔の正樹の目を、涼はじっと見つめていた。

「あれがコンクールの課題曲だったら…、負けてたかもね」

 両手をあげ、苦笑いを浮かべて正樹は漏らした。

「あ、そうそう。真紀がホールの入り口で待ってる。行ってやれば?」

「え…?」

「邪魔者は、ウィーンに消えますよ」

 正樹は意地悪いあのおがおを浮かべて、涼の背中を押した。その弾みで一歩
踏み出した彼は、振り返った。すると、正樹は顔をしかめ、彼を追い払うように手を振っていた。

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