とけていく…
エピローグ
　涼は、進級テストのための補習の嵐に見舞われていた。出席日数が足りない分、テストでカバーする、と言うのが、休学する条件として担任からのお達しだったのだ。テストさえパスできれば大丈夫なのだが、半年の遅れを取り戻すのは並大抵のことではなかった。

「うぅ…　頭痛ぇ…」

　テーブルに向かい、参考書と睨めっこをする彼は、熱く濃いコーヒーの入ったカップに手を伸ばした。

（苦ぇ…）

　顔をしかめると、カウンター越しから愉快に笑う声が聞こえてきた。涼はついムッとした顔を向ける。

「…自分が頭がスッキリするようなコーヒー入れてくれって言ったくせに…」

　ガラスのコップを磨きながら、マスターは笑いながらそう言った。

「…まぁ、そうっすけど…」

　右手で持っているシャーペンをくるくる遊ばせながら、涼は決まり悪くつぶやいた。今日は、ドルチェの定休日だったが、マスターが「コーヒー飲みながら勉強すれば」と店のカウンターを貸してくれたのだ。一人さびしく家で勉強するよりはと思い、涼はその好意に甘えさせてもらっていた。

　真紀によると、意外にもマスターは理系で、さらに英語が堪能らしく、涼は
それを期待していたのだ。

「あ〜…　わっかんね…」

　シャーペンを耳に掛けながら、またコーヒーを啜る。すると、マスターは参考書を覗いてきた。そして「あー、なるほどねー」と言いながらニコッと笑う。その笑顔は、意地悪に満ちていた。

「真紀のために頑張れよなー」

　彼はまた元の位置に戻り、グラスを磨き始めた。

（ちぇっ…）

　雄介も当てにできないことをわかっている涼は、視線を参考書に戻した。

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表紙・目次

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