とけていく…
「あれ、今日店開けてるの?」

 ドアの鈴の音とともに中に入ってきたのは、正樹だった。

「いや、涼くんの勉強の場を提供してんの。どした?」

 涼は、正樹にぺこりと頭を下げた。

「あっそ。留年じゃぁなぁ…」

 正樹のいつもの意地悪な視線を浴びせられ、涼は苦笑いを浮かべた。

「おじさん、でかいスーツケース無い? 買うと結構するんだよね」

 相変わらず、言いたいことを言うだけ言って、涼を無視して話を進める。涼は、諦めたように小さなため息を吐いた。

「ちょっと古くていいなら、あるぞ。出しとくよ」

「サンキュ。」

 お礼を口しにした正樹は、辺りを見渡した。

「…真紀は?」

「卒業旅行、だそうですよ」

 マスターの代わりに涼が答える。

「…なるほど」

 彼はうなずき、カウンターに座った。すると、マスターはタイミングよくコーヒーカップを彼の前に差し出した。

「なんか、この一週間大変だったみたいだな」

 カップを手に取った正樹の視線は、湯気が揺れるコーヒーのままだった。そんな彼のいつもより優しめな口調が涼の耳に届いた。

「まぁ…」

 涼は、そう答えながら、慌ただしかったこの一週間を思い出していた。

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