とけていく…
「これ…」

「そう。婚姻届」

 広げられたその書類には、すでに義郎のサインがされていたのだ。

「死んだ人間と結婚…? そんなこと…」

「できるみたい。半年間だけ…ね」

 笑子は目の前の婚姻届を見つめながらつぶやいた。

「半年だけ?」

 怪訝そうな表情を浮かべて涼が尋ねると、彼女はうなずいた。

「そのあとは?」

「未亡人」

 彼女は笑いながらさらりと答えるも、彼には聞き慣れない言葉だった。もち
ろん、言葉の意味は知っている。ただ、彼は思うのだ。

(虚しくないだろうか。死んでいった男の妻になること…)

 そんな彼の考えを見透かしたように笑子はにこっと笑っていた。

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