とけていく…
「意味が無い、とか思ってる?」

「あ、いや…」

 涼は視線を逸らし、うつむいた。

「生きてても死んでいても、私の気持ちは変わらないわ…。あの人と最後まで一緒にいるつもりだったんだから…」

 真剣な目で彼を見つめた笑子のその視線は、その意思の強さで涼を射抜いていた。

「…笑子さんのしたいようにしてください」

 顔を上げ、涼はそんな彼女の目を見る。すると、そこには女神のような微笑みを浮かべた彼女の顔があった。

「…私はあなたの母親にはなれないかもしれないけど、あの人と同じで、あなたの勇姿を見届けたいって思っているの」

 優しく、そして芯の強い眼差しで、彼女はゆっくりと言うのだ。その目に、嘘はなかった。何故だか急に彼は胸が熱くなった。そして、それを抑えるために深呼吸する。

「笑子さん…。よろしくお願いします」

 彼は、テーブルに額をぶつけてしまうくらい深く頭を下げたのだった。

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