とけていく…
「ま、君もいろいろ大変だろうけど、頑張りたまえ」

 偉そうな口調で言いはするが、正樹の顔はいたずらな笑顔でいっぱいだった。すると、涼もつられて笑っていた。

「そろそろ、帰ってくる頃かな」

 カウンターの端に置いてある木製の置き時計に視線をやりながら、マスターが口を開いた時だった。

「ただいまー」

 入口の鈴の音とともに聞き覚えのある声が元気に響き渡ったのだ。ここにいる全員が、一斉に入口に注目する。

「あら、皆さんお揃いで!」

 久しぶりに会った彼らの顔を見て、真紀は笑顔を弾くさせていた。そして涼と目が合うと、三日月のように特別に細くさせながら微笑んでいた。その笑顔を見た時、「んじゃ、俺帰るわ。おじさん、よろしくね」と、手を振り、正樹が立ち上がった。

「あっ、お土産あるのに」

 真紀の頭を撫で、ニコッと笑うと、正樹ははそのまま店を出ていった。

「もう…」
 口を尖らせながら、彼女は適当に荷物を置くと、涼の隣に座った。
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