とけていく…
「パパ、コーヒー飲みたい」

「ん」

 煎れたてのコーヒーの薫りが、ふわりと漂い、皆の鼻孔をくすぐった。

「涼、久しぶり」

 カウンターについた肘で彼の腕を突っつきながら、真紀は言った。

「うん」

「はかどってる?」

 彼女が尋ねると、持て余すようにシャーペンを指先でくるくると回しながら、「あはは…」と曖昧に笑ったのだった。すると、真紀はピアノを指差す。

「なんだよ」

「気分転換に、なんか弾いて」

 ウィンクしながら、真紀は涼におねだりした。

(気分転換か。悪くないな)

 涼は快くうなずくと、マスターから鍵を受け取り、その鍵穴に鍵を差し込んだ。そして、ガチャリと重たい音が響き、ゆっくりと蓋を押し上げる。すると彼の指はすぐに鍵盤を走り出した。軽快なリズムが弾け、メロディを奏でる。
 すると、自然と笑顔になり、楽しくなる。さらに、彼は心からピアノを弾いている喜びを感じることができるのだ。

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