とけていく…
三.
着いたところは閑静な住宅街だった。
久々に長距離で人を乗せて走ったせいか、彼の両方のふくらはぎは、もうパンパンだった。更には、噴き出す汗で、彼の背中はベトベトになっていた。
「あ、そこに喫茶店があるでしょ。うち、そこ。」
真紀が指をさす方向を見ると、そこには昔を彷彿させるような、レトロな雰囲気を醸し出している店があった。
煉瓦風のタイルで外壁は埋め尽くされており、深い緑色のドアには、イギリス車のminiを連想させられた。年季の入ったスタンド型の真四角な看板には『ドルチェ』と書かれていた。
(ドルチェ、ねえ…)
彼が知ってる『ドルチェ』の意味は、音楽用語の"優しく"だった。楽譜に"dolce"とあれば、そう表現しながら演奏しなければならない。
あとはイタリア語でスイーツと言う意味もある。
どちらの意味で使っているのかは、外観だけではわからなかった。喫茶店だし、後者かもしれない。涼はそんな風に考えながら、自転車を入り口の邪魔にならないように寄せてから停めると、店のドアを開けた真紀の後についていった。