とけていく…
正樹の曲が終わっても、彼は動くことができなかった。不適に笑う正樹は椅子から降りると、涼に手招きする。

「おじさんと真紀のお墨付きなら、君も相当うまいんだなー。聞きたいな。弾いてよ。」

 挑発するような目で、彼は涼を見つめている。その視線に、涼は違和感を感ぜずにはいられなかった。

「涼?」

 真紀が声を掛ける。

「あ… あぁ。じゃあ…」

 彼は正樹と交替するように、もう一度ピアノの前に座り神経を集中させる。しかし、背中には痛いくらいの威圧感を感じていた。

(なんなんだ…?)

 涼は気持ちを落ち着かせることができなかった。それでもなんとか集中させるが、見えないプレッシャーが彼の背中にのしかかっていた。

 完全な見切り発車だった。

 彼が生み出したメロディは、先ほどの演奏とは程遠いくらいにバラバラだった。それでも、臨んだ。至上最低の演奏を…



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